大工道具の一つであるノミについて使い方と種類、そしてそれぞれのノミの用途などについてご紹介します。
ノミは、ノコギリ、カンナとともに重要な大工道具の一つです。
木材同士の接合のための継手加工や仕口加工、箱組みの際の細かな加工に必要な手工具です。
それぞれの加工の目的や用途によってノミの種類や使い方がありますので、適切なノミを選ぶ必要があります。
またノミの刃先は大変鋭利になっており、使い方を誤るとケガの原因になります。
繊細な道具でもありますので、保管の方法なども適切に行わないと、刃先を傷めたりしますので、取り扱いにも注意が必要です。
りょう(DIYアドバイザー)
ノミの使い方
かつらの調整
ノミを使う前に、一つしておかなくてはいけない事があります。
ノミには、叩き(たたき)ノミと突き(つき)ノミがありますが、叩きノミには柄頭に「金属製の輪っか」が付いています。
これは「かつら」と言って、叩きノミを使う際に玄能(げんのう)等で柄頭を叩いた際に柄頭が割れるのを防ぐものです。
購入した直後の叩きノミのかつらは、写真のように柄頭から飛び出ています。

このままですと叩いたときに、玄能がかつらに当たってしまいます。
木部の柄頭に当たらないと、力が刃先に伝わりませんので、かつらよりも柄頭が出るように調整する必要があります。
そのためには、柄頭の側面を少し削って、かつらが深く入るようにします。
そこで一旦かつらを外します。

かつらの縁を玄能でたたいて外します。

当初にかつらが入っていた位置よりも2~3mmくらい深い位置から、周囲を少しづづ削ってやります。
あまり削りすぎると、ゆるくなってしまいますので、かつらをはめてみながら、おこなってください。
柄頭の周囲を玄能でたたいて、木殺しをしてかつらを入れ直す方法もあります。

削り終わったらかつらをはめ直し、玄能でかつらの縁をたたいてきつくなって止まるところまで入れます。
かつらから柄頭が1~2mm出ればOKです。

かつらから飛び出た柄頭の縁の部分を玄能でたたいてつぶせば、使用する準備の出来上がりです。
叩きノミの基本的な使い方
材料をしっかり固定する
まず加工する材料を作業台等にしっかりクランプなどを使って固定します。
作業台に固定する位置については、作業台の脚と脚の間は、台自体が振動したりします。
脚の真上が、たたいた時の力をしっかり受け止められますので良いでしょう。
ホゾ穴を掘る場合などに、斜めにノミを叩くと材料が横滑りする場合があります。
このときのために、専用のストッパーを取り付けておくと良いでしょう。
丈夫な角材や板をクランプでしっかり固定してストッパーにするのも良いです。


ノミの握り方と叩き方
叩きノミは、かつらのすぐ下を握ります。

玄能でたたくときは、ノミの柄頭の部分をノミの軸にまっすぐに当たるようにたたきます。
目線は、柄頭ではなく、刃先のを見て、刃の入り具合を確認しながらたたきます。

刃の入る深さ
ノミの刃は片刃になっています。
まっすぐになっている方が刃裏となり、斜めになっている方が刃表(甲表ともいう)になります。

ノミを材料に対して直角に立てても、深くたたいて行くと、刃は刃裏側に曲がりながら入っていきます。
したがって、材料に対して直角にまっすぐたたき込む場合は、深くは叩けません。
一度にたたいて入れる深さは、5mmくらいまでとしてください。
深く入った場合の抜き方
ノミはたたいて刃先を材料に打ち込んだり、抜いたりを繰り返します。
刃先が深く入った場合に抜くときは、ノミをゆすりながら抜きますが、ゆする方向があります。

上の図の左側のように、刃の幅方向にゆすって抜いてください。
右側の図のように、刃の表裏方向にゆすって抜いてはいけません。
理由はお分かりかと思いますが、深く刃が入った場合に右側のようにゆすると刃先に大きな力がかかり、刃の薄い部分や首の部分が曲がったりします。
最悪の場合は、ノミの命ともいうべき刃先が折れてしまいます。
刃の面の向き
ノミの刃は片刃になっていることはご紹介しましたが、穴を掘る場合に刃の面の向きについてご説明します。

例えば上記の写真のようなホゾ穴を掘る場合に、墨線に合わせて垂直にノミを入れる場合のノミの刃の面の向きについては、常に残す方の材料に刃裏が当たるように、彫って穴になる方に刃表が当たるようにします。
4つの辺の刃の当て方は下記の写真のようになります。




ノミを斜めに当てて叩いて掘り返していく場合は、下記の写真のように刃裏を上にしてたたきます。

突きノミの基本的な使い方

上記の写真のノミが突きノミの中の薄ノミと呼ばれているもので、穂先が最も薄いノミとなります。
突きノミは、手で突いて使いますので、玄能ではたたきませんので柄頭にはかつらは付いていません。
両手で持つ
突きノミは玄能を使いませんが、突きノミを使うときは必ず両手で持って使います。

利き手の方で柄頭を上から押すように持ち、もう片方の手で突きノミの首のあたりを持つのが基本的な持ち方となります。
片手で突きノミを持って、もう片方の手で材料を持ったり、また間違っても刃先の前に手を置かないようにしてください。
材料をしっかり固定する
突きノミは両手で持って使いますので、当然ながら材料はしっかり固定します。
方法については叩きノミの場合と同じです。
突きノミは、仕上げノミとも呼ばれますが、細かな仕上げ用に使います。
また手だけの力で材料を削りますので、一度に深くは入れず、少量づつ削るように押すのが基本です。
ホゾ穴を開ける手順
ノミを使う加工で最も一般的なホゾ穴を開ける場合の手順についてご紹介します。
ホゾ穴を開けるのに使用するノミは、最も一般的なノミとなる叩きノミの中の追入れノミを使用します。
まず最初に、ホゾ穴を開ける材料にスミツケをします。

材料に空けるホゾ穴の寸法の印をつけることを、スミツケといいます。
スミツケには、鉛筆やケビキなどをつかいます。
次に掘り線を入れます。

最終的にはスミツケの線に沿って穴を空けますが、いきなりスミツケの線で穴を空けるのではなく、2mmくらい内側を掘っていきます。
そこで、周囲のスミツケの線の約2mm内側に掘り線を入れていきます。
上の写真で、点線の部分になります。

上記の図は、ホゾ穴の断面図を描いたものですが、中央の色の濃い部分がホゾ穴となります。
スミツケの線の少し内側にノミを垂直にして、玄能でたたいて掘り線を入れていきます。
深くはノミを入れる必要はなく、3mm程度で良いです。
周囲に掘り線を入れ終えたら、次に掘り線に向かって斜めにノミを入れます。

周囲に入れた掘り線に向かって斜めにノミを叩いて入れ、少しづつ掘っていきます。
最初に入れた掘り線に再度ノミを垂直にして叩き入れ、深くしていきます。

ふたたび斜めにノミをたたき込み、さらに深く掘っていきます。

上記のように、掘り線を垂直に深くしながら、斜めにノミをたたき込んで穴を掘っていきます。
この作業を何度か繰り返し、目的の深さまで掘っていきます。

ホゾ穴の4辺を同じように掘っていきます。
以上が完了したら、最後にきれいに、丁寧に、スミツケの線に沿って周囲を削って仕上げます。

周囲がスミツケの線に沿ってきれいに削って仕上げたら、ホゾ穴の完成です。
ノミ・小刀の種類
ノミには使用目的によっていろいろな種類がありますが、ここではノミの概念を少し広げ、使用目的が似ている彫刻用のノミや小刀についてもご紹介します。
ご紹介する種類は以下のようなものになります。
● 叩きノミ ① 追入れノミ ② 丸ノミ
● 突きノミ ① 薄ノミ ② しのぎノミ
● 彫刻用ノミ ① 彫刻ノミ ② 彫刻刀 ③ てん刻刀
● 小刀 ① 切出小刀 ② くり小刀 ③ ヒゴノカミ
叩きノミ
叩きノミは、木造住宅などの柱材にホゾ穴加工や組手加工を行ったり、仕口加工を行なったりするときに使われるノミです。
叩きノミには以下のような種類があります。
追入れノミ(おいれのみ)

最も一般的によく使われるのがこの追入れノミです。
ホゾ穴加工、組手加工、仕口加工など、あらゆる木工の加工に使われます。
追入れノミは、穂先や首の長さが比較的短いので、ホゾ穴の深さが浅い場合やホゾ穴の仕上げ加工に適しています。
穂先の刃幅は、3~42mmくらい揃えられていますので、使用目的に合わせて刃幅を選択してください。
これからノミを使っていろいろな加工にチャレンジされる方は、とりあえず、9mm、15mm、24mm の3本あれば、たいていのノミによる加工を行うことができます。
丸ノミ
穂先の断面が円弧になっている叩きノミで、内丸と外丸があります。
刃表が凸型になっているのが内丸、反対に刃表が凹型になっているのが外丸となります。

刃表が凸型になった内丸

刃表が凹型になった外丸
丸ノミは、曲面のある穴や曲線部のある材料などの加工に使われます。
穂先が厚いものと薄いものがあり、プロの大工さんが使ったり、彫刻用としても使われています。
穂先の刃幅は、6~30mmくらいの種類があります。
突きノミ
突きノミは、玄能でたたくことはせず、手で突いて使うノミです。
突きノミには以下のような種類があります。
薄ノミ
薄ノミは、ノミの中で最も穂先が薄いノミとなります。


長さも叩きノミに比べるとずいぶんと長くなります。

薄ノミは、木製の戸や障子などの組手加工や細かくて深いミゾなどを掘る場合などに使われます。
穂先の刃幅は、6~30mmくらいのものが揃っています。
しのぎノミ
しのぎノミは、穂先の断面が三角形になっています。

しのぎノミは、家具加工や建具の加工用として用いられています。
蟻ホゾ加工、蟻組み加工などの鋭利な角度の付いたミゾなど、薄ノミでは加工が困難なところの加工に使用されています。
穂先の刃幅は、6~30mmくらいのものが揃っています。
彫刻用ノミ
彫刻用ノミには、彫刻ノミ、彫刻刀、てん刻刀の3種類があります。
彫刻ノミ
彫刻ノミには、平ノミ、丸ノミ、決ノミ、三角ノミ、小道具などがあります。
仕上げ用に使うものと粗掘り用に使う2種類があり、比較的大きな彫刻物を彫るのに使われています。
彫刻刀
彫刻刀には、小刀、平刀、丸刀、三角刀、生反(なまぞり)などがあります。
彫刻物や木彫りした物の細かな仕上げなどに使われています。
てん刻刀
てん刻刀は、石材に文字などを彫るために使われるものです。
寿山石(じゅさんせき)やロウ石などを用いて作られる、掛け軸などに押す朱印がありますが、この朱印の文字を彫るのに主に使われています。
小刀
小刀には、切出小刀、くり小刀、ヒゴノカミ の3種類があります。
切出小刀
切出小刀には、右刃、左刃、両刃 の3種類あります。
各種木工加工において、繊細な細かな加工に使われています。
木彫の仕上げ加工などにも使われています。
刃渡りは、3~24mm くらいまであります。
くり小刀
切出小刀にも、右刃、左刃、両刃 の3種類あります。
切り刃の角度が10~15度と、大変鋭利になっており、各種曲面のえぐり加工や削り加工に使われています。
また、竹クギや木クギの製作にも使われています。
ヒゴノカミ
ヒゴノカミは、折りたたんで収納出来るようになったもので、主に竹細工などの加工に使われています。
ノミの構造と名称
一般的によく使われている叩きノミの中の追入れノミについて、構造と名称についてお紹介します。

刃表 
刃裏 
柄頭(えがしら)
ノミの一番手元に近い部分で、ここを玄能でたたきます。
かつら
柄頭の部分には、「かつら」と呼ばれる鉄製のリングがはめられています。
叩きノミの柄頭の部分は、玄能でたたきますので、割れから守るために鉄製のリングがはめられています。
柄
ノミの柄には、衝撃に強い硬い白樫やグミの木が使われています。
首
柄と穂の間の細くなった部分を穂(ほ)と呼んでいます。
穂(ほ)
穂は刃が付いている部分で、穂の先端部分を穂先といいます。
刃幅
刃幅によってノミの用途がいろいろと決まってきます。
目的と用途によって、適切な刃幅のノミを選ぶ必要があります。
刃表
斜めの切れ刃が付いているほうが刃表となります。
甲表とも言われています。
刃裏
刃裏の中央部分には「うらすき」と呼ばれているくぼんだ部分があります。
これによって材料の平面が出しやすいようになっています。
ノミの選び方
ホゾ穴加工や組手の加工などを行うのに使用されるノミは、叩きノミの中の追入れノミとなります。
追入れノミは、刃幅によって3~42mm くらいのものが揃えられています。
ご自身が行われる加工の内容による使用頻度によって刃幅を決められると良いでしょう。
これからノミを使った加工にチャレンジされる方の場合は、3本がセットになったものが販売されていますので、これから始めてみてはいかがでしょうか。
3本は、刃幅が、9mm、15~18mm、24mm の3本が多いでしょう。
その後に、必要に応じてその他の刃幅のものを揃えていかれると良いでしょう。
箱物などの加工で、蟻組つぎをされる場合には、突きノミの中の、穂先が三角形になったしのぎノミが必要になります。
彫刻をされる方には、粗削り用として丸ノミの内丸が使いやすいでしょう。
ノミの良し悪しについては一般の私たちには分かりにくい部分ですので、信頼のあるメーカーの製品や、評判が良くて売れ筋の製品を選べば間違いはないように思います。
お店の方に聞くのが最善の方法かもしれません。
便利なノミ
便利なノミに、電気で振動して彫ってくれる電動木彫機というのがあります。
電動木彫機は、木彫をされる方にとって大変便利なノミです。
電動木彫機の老舗メーカーは、東京オートマックですが、その他にもメーカーが揃っています。
手で彫る場合に比べて、断然の高能率で彫ることが出来ます。
ご興味のある方は是非ご覧になってみてください。
ノミのメンテナンス
ノミを使い終わったら潤滑剤などを塗布し、作業中に付いた汚れや木のヤニなどを布でしっかりふき取っておきましょう。
またノミはサビが大敵ですので、保管する前に刃先や金属部分には薄く油を塗っておくとよいでしょう。
保管する際は、ノミの刃先が当たらないように購入時に付いていたキャップを付けて保管しましょう。
キャップがなければ、布か新聞紙を厚く折り曲げて巻いておいても良いです。
保管する場所は、他の道具などに当たらないように専用の木の箱を作って保管するのが最も良いでしょう。
その他には、「ノミ巻き」と呼ばれる布製の専用のものがあります。
また革製の専用ケースなども販売されています。
まとめ
ノミは、わが国において昔から使い続けられている木工用道具です。
日本の伝統的な木組みの技術は、世界に誇れるものであり、その加工においてノミは欠かせない道具です。
木工をされる方にとっては、ぜひ揃えておきたい道具のひとつです。
ぜひノミに親しんでいただき、木工の伝統技術である継手や仕口加工を一つでも多くマスターしていただければと思います。






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